「よ。しっかし遅いな、お前」
「なっ、んでお前が……」
 俺が挨拶に手をひらひらとさせてやると、唖然とした様子でその場に立ち尽くし鞄を床に落とす。
 その鞄の音は深夜の廊下にはよく響いた。

「いやー、日付変わるまでに帰ってきて助かった」
「いや、いやいやいやいや! そもそもなんでお前が俺ん家の前に――」
 左手や顔をぶんぶんと振るその仕草はワケが分からないと言いたげだ。
 俺はほんの少し溜め息を吐くと自分の足元にあるモノをポンポンと軽く叩いた。
 首を傾げて俺の足元にあるモノを覗き込む。
「誕生日だろ。……俺からのささやかなプレゼントってヤツ」

 実の所、本当は用意するつもりはなかった。
 用意せずともそれが当たり前と思って登校したもんだよ。
 なんたって俺の事嫌いみたいだしな。
 最悪言葉だけでも言っときゃ充分だろう、と考えていたんだ。
 それがなんだ、いっつも目が合えば嫌味ばっか言ってくるアイツがだ。
 プレゼントなんてねぇよって言った瞬間のほんの一瞬の顔だよ。
 いっつもしかめっ面なのに、あの一瞬と言ったら……。

 気が付けば俺はこうして律儀にプレゼントを用意して家の前で張り込みまでしているワケだ。
 ……ホント、俺もお人好しだな。

 プレゼントを見た姿勢のまま、ソイツは動こうとしない。
 固まっている、と言うのが一番正しいだろうか。
 しばらくの間、静寂が廊下を支配する。それを壊したのはアイツの笑い声だった。

「――ははっ」
「なんだよ」
「誕生日プレゼントに米ってセンスが……」
 悩みに悩みぬいたプレゼントを笑われ、俺も少しムッとしてしまう。
 お前がいっつも生活厳しい厳しい連呼するからだろうが。
 講義中、ずっと何にするべきか悩んでいた自分が馬鹿らしくなってくる。
 こちとら朝からずっと集中出来なかったんだぞ。

「あー、もう! いらねぇなら返せ!」
「誰が! もうこの米は俺のモンだ!」
 俺が米を取るよりも前に米をひったくられる。
 軽く舌打ちをしてアイツを睨もうとして、一瞬止まった。

「へへ、サンキュ」
 ゴーグルをしていて見え辛いが、確かにアイツは米袋を肩に担ぎ笑っていた。

 そう、笑っていた。
 あの俺に向かってだけはいっつもしかめっ面のアイツが、だ。
 アイツの笑った顔なんて、他人との会話でしか見た事がなかった。
 そんなアイツが俺との会話だけで、俺に向かって――。

「……っ、やっぱり返せ!」
「へっ、もー俺のモンだ! 男に二言はなし!」
「それでも返せ!!」
 俺が走り出そうとするよりも早く相手は米を担いだまま走り出す。
 俺からあり程度距離を取るとこっちに振り返る。
 ゴーグルを米を担いでいない方の手で少し持ち上げると、今度は誰が見てもハッキリと分かるくらいに笑った。

剛志

「これ、今日の中で一番嬉しいかもな!」
 またドキリとするのが分かる。なんか、今日俺コイツに振り回されすぎだ。
 今が夜で良かった。今の俺の顔は、きっと見れたモンじゃないだろう。

圭一

 大体、なんでもかんでもいきなりってのは反則だ。
 今みたいな笑顔だってそうだ。
 反則だ。

 胸の動機がバレないように、近所迷惑も省みず、俺は照れ隠しの言葉を叫ぶ。
 そう、これは照れ隠し。笑顔を向けてくれた嬉しさの照れ隠し。

「やっぱり返せ!!」


剛志の超デレ。
圭一も結構照れる子です。
剛志も圭一も照れ隠しする子。

09/06/13